医療コラム

便秘薬との正しい付き合い方 第二弾 ~「体質」を重視する漢方薬の選び方~
皆さん、こんにちは。ミモザクリニック院長の小林倫子です。
前回のコラムでは、便通異常症診療ガイドラインに基づいた西洋薬(浸透圧性下剤や上皮機能変容薬など)による便秘治療の考え方についてお話ししました。
今回は、便秘治療の選択肢として多くの方に選ばれている漢方薬について、その特徴と、西洋医学とは異なる「体質」を重視した選び方をご紹介します。
漢方薬は、便秘治療においても大変有効な選択肢です。ただし、2023年の「便通異常症診療ガイドライン」では、まず西洋薬による治療を優先し、漢方薬は代替・補助的な使用とすることが推奨されています。西洋薬が便の水分調節や腸の運動促進といった「症状」に直接アプローチするのに対し、漢方薬の治療の最大の特徴は、便秘を全身の病態の一つの表現として捉える点です。
便秘は、大腸運動の異常、知覚異常、ストレスなどのたくさんの要因が関係しています。漢方薬の便秘に対する治療の特徴は、便秘そのものに対する治療だけではなく、便秘を精神的状態も含めた症状・症候の病態の一つの表現として捉え、全身の病態を治そうと考慮に入れて薬を選択します。また、漢方薬はたくさんの要因に同時にアプローチできるので、時に西洋薬より有効なことがあります。
漢方薬には、主に以下のような働きを持つ生薬が複数含まれ、症状や病態に応じて使い分けられます
| 瀉下(しゃげ)作用 | 大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう) |
整腸作用 |
膠飴(こうい)、人参 |
潤腸作用・水分分泌促進 |
麻子仁(ましにん)桃仁、杏仁 |
腸管運動の促進 |
乾姜(かんきょう)、生姜(しょうきょう)、山椒(さんしょう) |
腸管の過剰収縮の緩和 |
芍薬(しゃくやく)、厚朴(こうぼく) |
例えば、瀉下作用を持つ大黄の主成分は、刺激性下剤のセンノシドであり、腸内細菌によって活性化され、腸管運動を亢進させます。また、麻子仁は、西洋薬のルビプロストンやリナクロチドと同様に、腸管の水分分泌を促進し、便秘を改善する働きが報告されています。乾姜・生姜の主成分であるショウガオールは消化管内の受容体を介して腸管血流を増加させ、その結果、消化管運動の亢進をもたらすことがわかっています。
漢方薬を選ぶ上で重要となるのが、患者さんの体質や体力、抵抗力を示す「虚実(きょじつ)」の判断です。便秘の漢方治療も、この「実証」と「虚証」に分けて考えるとよいといわれています。
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実証 |
虚証 |
体力・抵抗力 |
十分にある、充実している |
虚弱で衰えている |
体型 |
筋肉質 |
やせ、水太り |
おなかの状態 |
腹力つよい、肋弓角が広い |
腹力弱い、やわらかい |
便の状態 |
太くつながった便 |
コロコロした兎糞状の便 |
眼、声 |
力がある |
力がない |
皮膚 |
色、つやがよい |
色、つやが悪い |
大黄の主成分はセンノシドであり、これは、便通異常症診療ガイドラインで頓用、頓服での使用が推奨されていることから、大黄の有無にわけて処方を考えてみます。
臨床的に、実証の便秘には、大黄や芒硝といった瀉下作用の強い生薬を含む漢方薬がよく使われます。
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漢方薬 |
生薬 |
特徴 |
実証 |
大柴胡湯 |
柴胡、半夏、芍薬、大棗、枳実、生姜、大黄、黄芩 |
頑丈な体格で上腹部全体が張って抵抗があるもの(胸脇苦満)、心窩部の不快な感じ(心下急)を訴える便秘に有効。 |
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防風通聖散 |
黄芩、甘草、桔梗、石膏、白朮、大黄、荊芥、山梔子、芍薬、川芎、当帰、薄荷、防風、麻黄、連翹、生姜、潤石、芒硝 |
臍を中心として服力が充実した、肥満、太鼓腹の人に有効。 |
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桃核承気湯 |
桃仁、桂皮、大黄、甘草、芒硝 |
月経痛、月経前症候群、のぼせ、不眠、精神不穏、目の下のクマなどの瘀血(おけつ)の症状があり、臍傍の圧痛を認める人の便秘に有効。 |
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調胃承気湯 |
大黄、甘草、芒硝 |
大黄甘草湯に芒硝を加えたもの。芒硝は硫酸ナトリウムで塩類下剤である。 |
虚実中間証 |
大黄甘草湯 |
大黄、甘草 |
実証の便秘の第一選択薬。効果が不十分な場合、芒硝(硫酸ナトリウム)を含む調胃承気湯を試みる。虚実中間証で幅広く使用。 |
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麻子仁丸 |
大黄、枳実、杏仁、厚朴、芍薬、麻子仁 |
皮膚の乾燥、口が乾く、などを訴える高齢者や虚弱な人の兎糞状のコロコロした便がでる常習性便秘に有効。滋潤作用のある麻子仁、杏仁が含まれており、便を軟らかくする働きを持つ。 |
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潤腸湯 |
地黄、当帰、黄芩、枳実、杏仁、厚朴、大黄、桃仁、甘草、麻子仁 |
麻子仁丸と同様に便を軟らかくする作用をもつが、より乾燥の強い人に使う。 |
虚証 |
桂枝加芍薬大黄湯 |
芍薬、桂皮、大棗、甘草、大黄、生姜 |
芍薬は平滑筋に対する鎮痙、鎮痛作用があり、消化管の痙攣性収縮を伴う腹痛に適応される。おなかが張って便がすっきりせず、便意があるにもかかわらず、便がほとんど出ない、あるいは少量しか出ない状態が頻繁に続く人に使う。便秘型過敏性腸症候群の第一選択薬。 |
虚証の便秘では、瀉下作用の強い薬を使うと腹痛や激しい下痢が見られることがあるため、消化管の運動機能を改善させたり、便を軟らかくする生薬を含む漢方薬で治療します。
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漢方薬 |
生薬 |
特徴 |
やや実証 |
桂枝茯苓丸 |
桂皮、芍薬、桃仁、茯苓、牡丹皮 |
肩こり、めまい、頭痛のみられる、のぼせ傾向のある赤ら顔のひとに用いる。臍傍の圧痛をみとめる。 |
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桂枝加芍薬湯 |
芍薬、桂皮、大棗、甘草、生姜 |
便秘下痢交代型の過敏性腸症候群の第一選択薬。消化管の過剰収縮による臍周囲から下腹部の疝痛をきたすときに有効。腹痛を伴う便通異常で生じる腹部膨満感に有効。 |
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加味逍遙散 |
柴胡、芍薬、当帰、茯苓、山梔子、牡丹皮、甘草、生姜、薄荷、蒼朮 |
女性の更年期症状(疲労感、自律神経失調症状や精神神経症状など)に伴う、軽症な便秘に有効。 |
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当帰芍薬散 |
芍薬、蒼朮、沢瀉、当帰、茯苓、川芎 |
おなかが柔らかく、むくみやすい、四肢が冷えて、めまい、貧血傾向にあり、瘀血を伴う軽症の便秘に有効。 |
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小建中湯 |
芍薬、桂皮、大棗、甘草、生姜、膠飴 |
桂枝加芍薬湯に膠飴(麦芽糖)を加えた処方で桂枝加芍薬湯の適応病態よりさらに虚弱、腹痛が激しい時につかう。虚弱体質で精神的な緊張がつよく、腹直筋がはる便秘に有効。胃腸虚弱な小児の便秘や繰り返す腹痛にも効果がある。 |
虚証 |
大建中湯 |
人参、山椒、乾姜、膠飴 |
腸管蠕動運動の低下によりガスが貯留する便秘。腹壁に腸管の蠕動亢進がわかり、腹部全体にガスが貯留して腹鳴、腹部膨満感がある人の腹痛や便秘に使用。冷え性の人に多い。 |
漢方薬は、体質や現在の症状、全身の状態を総合的に判断して選ぶことが重要です。自己判断で選んでしまうと、効果が得られなかったり、かえって体調を崩してしまう可能性もあります。
「西洋薬が合わなかった」「体質から改善したい」という方は、ぜひ一度、当院にご相談ください。西洋医学の知識と漢方薬の考え方を組み合わせ、患者さん一人ひとりに最適な治療をご提案いたします。